2026年10月21日時点で、10月20日〜21日に報じられたAIニュース19本(世界10本・日本9本)を、AIニュース速報としてまとめます。最大の話題は、米国土安全保障省(DHS)が連邦政府の民間行政機関に対し、中国DeepSeekの製品と、DeepSeekの技術を使った第三者の製品・サービスについて、調達の停止と政府のITシステムからの排除を命じたことです。TechCrunchによると各機関は例外を申請でき、ITmedia NEWSによると、命令は2018年制定の連邦調達サプライチェーン安全法(FASCSA)に基づくもので、10月20日(現地時間)付の官報で公示されました。中国外務省は反発しています。
このほか、Anthropicが株式上場に向けて作成した登録届出書(S-1)の内容を米Wall Street Journal(WSJ)が報じ、WSJによると上半期の純損失は807億ドルに上りました。日本では、デジタル庁が政府職員向けの生成AI環境「源内」でAIエージェントの利用環境の提供を始め、同庁は約18万人規模での導入を「世界初」としています。GoogleのTorchTPU、PFNとTenstorrentによるAI半導体の共同開発、日本企業を狙う不正アクセスでのAI侵入テストツールの悪用まで、日本企業への影響と業務効率化の観点から解説します。
AIニュース 2026年10月21日:10月20日〜21日の全体像(最新AIニュース・生成AIニュースまとめ)
元にしたのは10月21日付の要約1本で、収録数は世界10本・日本10本の計20本です。このうち日本の1本(DHSの命令を伝えたITmedia NEWSの記事)は、世界の同じ話題(TechCrunch)と統合し、19本として扱います。ソースとしてリンクした記事は20本で、内訳はTechCrunchが9本、ITmedia NEWSが5本、ITmedia AI+とITmedia ビジネスオンラインが2本ずつ、ITmedia エンタープライズとAI Newsが1本ずつです。元にした要約が見出し中心だった項目は、元の記事に明記された事実を補い、要約と元の記事が食い違う点は元の記事に合わせています。なお、AIブラウザの論文、チューリングと江戸川区の講演は、4月の論文や7〜8月のイベントをもとにした記事で、この2日間の新しい発表ではありません。
| テーマ | この2日間の主な動き | 本数 |
|---|---|---|
| 米政府のDeepSeek排除 | DHSが連邦民間機関に、DeepSeekの製品と、その技術を使った第三者の製品の調達停止と排除を命令。中国外務省は反発 | 1本(ソース2本) |
| AnthropicのS-1報道 | WSJに流出したS-1の内容(大手クラウドとの関係)、WSJによる上半期の純損失807億ドル、11月のIPOを目指すとの報道 | 1本 |
| デジタル庁「源内」 | AIエージェントの利用環境「エージェントチャット」の提供開始、「源内基準」の公表 | 1本 |
| 世界:AI半導体・インフラ・フィジカルAI | Google「TorchTPU」、SpaceXの決算、ドイツ政府とNvidiaの共同意向宣言、Eka Robotics | 4本 |
| 世界:買収・資金調達・消費者向けAI | OpenAIのOrchestra Bio買収、Otter.ai、ChatGPTのチャットロック、Meta「Muse」 | 4本 |
| 日本:AIセキュリティとガバナンス | GMOイエラエの「ARTEX」悪用の調査、中本有哉氏の補足、AIブラウザの論文、IBMの調査 | 4本 |
| 日本:AI半導体・自動運転・自治体・広告 | PFN×Tenstorrent、チューリングの計算基盤、江戸川区の生成AI活用、ChatGPT広告の調査 | 4本 |
以下は筆者の整理です。この2日間のニュースには、使っているAIがどこから来て、誰が責任を持つのかという共通の問いがあります。米政府はDeepSeekの製品だけでなく、その技術を組み込んだ第三者の製品まで排除の対象にしました。日本では、デジタル庁がAIエージェントを使う立場ごとの責務を定めた基準を公表し、GMOイエラエは日本企業を狙う攻撃者がAIを使う侵入テストツールを悪用していると発表しています。IBMの調査では、AIエージェントが不利益な結果を招いたときに誰が責任を負うのか、経営幹部の間で合意がないことが示されました。AIの活用を広げる日本企業にとって、使うモデルの出どころ、エージェントの権限、セキュリティの基本対策を同時に見直す時期に来ていると考えます。
DeepSeek利用禁止:米国土安全保障省が連邦民間機関に排除を命令、DeepSeekの技術を使った第三者の製品も対象に
命令の中身:調達からの除外とITシステムからの排除、根拠は2018年の連邦調達サプライチェーン安全法
TechCrunchによると、DHSは、連邦政府の民間行政機関に対し、中国のAIスタートアップDeepSeekが開発したサービスと製品の購入をやめ、政府のITシステムから取り除くよう命じました。理由は、同社の中国での事業に関わる国家安全保障上の懸念です。命令は、DeepSeekによる利用者データの扱いへの懸念を挙げ、米政府の利用者の機密情報が中国の法律の下で中国当局にアクセスされうると警告しています。ITmedia NEWSによると、DHSは10月20日(現地時間)付の官報で、国土安全保障長官がこの命令を出したと公示しました。
| 項目 | 内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 調達 | DeepSeekとその関連会社が開発したIT製品・サービスを、連邦民間機関の調達対象から除外する | ITmedia NEWS |
| 既存のITシステム | DeepSeekと関連会社の製品に加え、DeepSeekの実装を使って開発された第三者の製品・サービスも、民間機関のITシステムから排除する | ITmedia NEWS、TechCrunch |
| 例外 | 各機関は例外を申請できる | TechCrunch(ITmedia NEWSの記事には記載なし) |
| 法的根拠 | 2018年制定の連邦調達サプライチェーン安全法(FASCSA)。連邦調達安全評議会(FASC)の勧告と関連する証拠を精査したうえで出したとしている | ITmedia NEWS |
ITmedia NEWSによると、署名済みの命令文は、米政府の規制情報サイト「regulations.gov」で公開されています。TechCrunchは、この命令がDeepSeek自身の製品の禁止にとどまらず、DeepSeekの技術で作られた第三者の製品・サービスにまで及ぶ点を強調しています。政府機関は、AIモデルそのものに加え、そのモデルを組み込んだ製品まで調達の対象から外し、連邦民間機関でのDeepSeek利用禁止を広げたことになります。
背景:中国外務省は反発、米国は2025年12月の法律で情報機関のシステムでの利用を制限済み
TechCrunchによると、中国外務省の毛寧報道官は20日の会見で、中国は「国家安全保障の概念を拡大解釈し、技術や貿易の問題を政治化すること」に反対すると述べ、中国企業の正当な権益を断固として守るとしました。米国は、2025年12月に成立した法律で、情報機関の国家安全保障システムでのDeepSeekの利用を既に制限しています。今回の命令は、その制限を連邦民間機関に広げ、新規の購入と既存のITシステムの両方を対象にしたものです。
TechCrunchは背景として、AIをめぐる米中の競争の激化も挙げています。Bloombergは先週、中国がチップ設計や一部の先端AIモデルを含む23のAI関連技術について、輸出規制を検討していると報じました。米国は9月の報告書で、DeepSeekとAlibaba、Moonshot AIを含む中国のAI企業計6社が、大規模なモデルの蒸留で米国のAIシステムから情報を引き出したと非難しています。OpenAIは今年、DeepSeekが自社モデルの蒸留を試みたとみられる動きを米議員に報告し、AnthropicもDeepSeekなど中国のAIラボがClaudeの出力を無断で集めようとした試みを特定したとしていました。
ITmedia NEWSによると、DeepSeekは10月17日、AIモデル「DeepSeek-V4.1-Flash」の新版「DeepSeek-V4.1-Flash-1017」の重みを、商用利用できるMITライセンスで公開したばかりでした。コーディングエージェントの性能を測るベンチマーク「DeepSWE v1.1」で成功率77%を記録し、前の版より低いコストでOpenAIの「GPT-6 Astra」などを上回ったとうたっています。ただし、これは同社の環境での評価で、第三者による検証はまだ少ないとITmedia NEWSは伝えています。
以下は筆者の見解です。今回の命令の対象は米国の連邦民間機関で、日本企業によるDeepSeekの利用を直接禁じるものではありません。ただ、DeepSeekの技術を使った第三者の製品まで対象にした点は、日本企業にも関係します。オープンウェイトのモデルは商用ライセンスで公開されると、SaaSや業務アプリに組み込まれ、利用者が気づかないまま使われることがあります。米国の政府機関や、米国の規制を意識する取引先と取引する日本企業は、自社の製品やサービスにどのAIモデルが入っているかを説明できるようにしておく必要があると考えます。
Anthropic IPO報道:流出したS-1によると大手クラウドがAnthropicを競合視、WSJによると上半期の純損失は807億ドル
S-1の内容として報じられた点:AWS・Google・Microsoftとの関係、第三者のデータセンター、保険を超える賠償責任
TechCrunchの短信(In Brief)によると、WSJに流出したAnthropicのS-1(株式上場のための登録届出書)には、同社がAWS、Google、Microsoftから十分なクラウドの計算資源を確保するのに苦労しているとの内容が含まれています。3社は、Claudeを開発するAnthropicを、顧客ではなく競合とみなすようになってきているといいます。
Anthropicは自社でデータセンターを借り、第三者のデータセンター事業者とも組んでいます。ただし、S-1では、こうした事業者は「運営の実績が限られている」ため、大手クラウド事業者より信頼性が低くなりうるとの懸念を示しています。さらに、AIの有害な振る舞いが引き起こした損害についてAnthropicが責任を問われ、その額が利用できる保険の補償を超える可能性があるとも警告しています。TechCrunchは、これを既に報じられていた壊滅的なリスクに関する開示に続くものと位置づけています。
本連載の10月17〜20日回では、Anthropicが6月1日にS-1の草案を米証券取引委員会(SEC)に非公開で提出したと発表していることと、株式の5%を拠出する公益ファンドの設立を取り上げました。今回の報道は、その上場申請書類の中身に関するものです。
数字の出どころ:上半期の売上高と純損失はWSJ、クラウド契約の7,500億ドル超は9月の報道、第3四半期の売上高は投資家への説明
この短信には出どころの異なる数字が並んでいるため、TechCrunchの記述に沿って整理します。
| 項目 | 内容 | 出どころ(TechCrunchの記事による) |
|---|---|---|
| 上半期の売上高 | 163億ドル | WSJの報道 |
| 上半期の純損失 | 807億ドル | WSJの報道 |
| 売上の集中 | 顧客2社で売上の約5分の1 | WSJの報道 |
| クラウド契約への支出 | 7,500億ドルを超える可能性があり、一部はまだ交渉中の契約を含む | 9月下旬のロイターとFinancial Timesの報道。流出したS-1はこの数字に詳しい背景を加えたとしている |
| 第3四半期の売上高 | 168億ドル(前期比45%増) | 先週、Anthropicが投資家候補に伝えた数字(TechCrunchは投資家候補への説明として紹介) |
| 上場の時期 | 11月のIPOを目指していると報じられている | 報道ベース(TechCrunchは「報じられている」と表現) |
TechCrunchは、Anthropicの巨額の支出が、上半期の807億ドルの純損失の上に成り立っていると指摘しています。出どころは異なりますが、第3四半期だけの売上高168億ドルは、上半期の売上高163億ドルを上回る規模です。Anthropicは、TechCrunchのコメントの求めにすぐには応じませんでした。11月の上場は「報じられている」という段階の情報です。
ソース:TechCrunch
以下は筆者の見解です。Claudeを業務で使う企業にとって、注目したいのは赤字の額よりも、計算資源の確保をめぐる記載です。AIモデルの提供元が大手クラウドから競合とみなされ、十分な容量を確保しにくいのであれば、利用が集中する時期の応答速度や新機能の提供時期に影響が出る可能性があります。特定のモデルに業務を深く依存させるほど、こうした影響も大きくなります。重要な業務では、複数のAIモデルを切り替えられる設計にしておくことを勧めます。S-1の正式な公開や上場の時期は、今後の報道で確かめる必要があります。
デジタル庁 源内:政府職員約18万人向けにAIエージェント環境、「エージェントチャット」を提供開始し安全基準「源内基準」も公表
エージェントチャットと源内工房:対話でエージェントを作る機能と、AIコーディングエージェントに相当する機能
ITmedia NEWSによると、デジタル庁は10月20日、政府職員向けの生成AI利用環境「ガバメントAI 源内」(げんない)で、2種類のAIエージェント利用環境の提供を始めると発表しました。対話形式でAIエージェントを作って動かせる「エージェントチャット」は同日から各府省庁に順次導入し、より高度なAIエージェントを構築できる「源内工房」は12月ごろまでの導入を目指します。
源内工房は、自然言語で指示するとプログラムの作成・修正やファイル操作、動作確認などを自律的に進める「AIコーディングエージェント」に相当する機能を持ちます。デジタル庁は、職員が業務に合わせてAIエージェントを作り、使いながら改善できる環境を整えることで、現場主導の業務改革や業務効率化、AI活用人材の育成につなげるとしています。同庁の調査によると、こうした高度なAIエージェント環境を、一般の職員も日常業務で使える政府共通基盤として約18万人規模で導入するのは世界初の試みだといいます。「世界初」はデジタル庁自身の調査に基づく主張です。
源内はデジタル庁が内製した生成AIの活用環境で、2025年5月に同庁内で利用が始まりました。2026年5月には全府省庁の職員約18万人を対象とする大規模実証を開始し、法制度の調査や国会答弁の作成支援などに使っています。実証期間は2027年3月までの予定です。大規模実証の開始は、本連載の2026年5月28〜29日回で取り上げました。
源内基準とOSS公開:利用者・管理者・開発者ごとの責務をAISIの協力で整理、2027年2月ごろに「源内OSS Ver.2.0」
デジタル庁は、AIエージェントは源内がこれまで提供してきた機能より高度かつ複雑で、実行できる処理の範囲も広いとしています。そこで、職員が安全に使うためのルール「ガバメントAI 源内 ガバナンス・セキュリティ・セーフティに関する基準」(源内基準)を策定し、同日公表しました。源内基準は「利用者」「管理者」「開発者」の立場ごとに責務と遵守事項を定めたもので、AIの安全性評価を担うAIセーフティ・インスティテュート(AISI)の協力を得てまとめています。
古川俊治デジタル大臣は同日の記者会見で、AIエージェントの導入をこれから検討する自治体や民間企業が、自らの組織でAIの統制を考える際にも源内基準が参考になるとの考えを示しました。エージェントチャットと源内工房は、誰でも利用・改変・再配布できるオープンソースソフトウェア「源内OSS Ver.2.0」として、2027年2月ごろをめどに一般公開する予定です。古川大臣は、AIエージェントを使うことでリスクも若干上がるとし、安全で信頼できる環境で使うために政府がまず率先して取り組み、広げていくことに意義があると述べています。
ソース:ITmedia NEWS
以下は筆者の見解です。民間企業がAIエージェント導入を進めるときに参考にしやすいのは、ツールそのものより源内基準の組み立て方です。エージェントを使う人、管理する人、作る人で責務を分ける考え方は、企業の情報システム部門と事業部門の役割分担を考えるうえでも参考にできると考えます。一般の職員がAIコーディングエージェントに相当する機能を使う点も、プログラミングの経験がない社員にエージェント作りを任せるかどうかを考える材料になります。源内OSSが公開されれば、自治体DXや中小企業のAI活用でも、政府と同じ仕組みを試せるようになる可能性があります。
世界のAIニュース①AI半導体・インフラ・フィジカルAI:GoogleのTorchTPU、SpaceXのAI事業、ドイツ政府とNvidia、Eka
Google「TorchTPU」をオープンソースで公開:PyTorchのAIアプリを設定変更でTPUへ、Amazonに続きNvidiaの牙城に挑む
TechCrunchによると、Googleは20日、PyTorchの自社版「TorchTPU」をオープンソースのプロジェクトとして公開しました。PyTorchは、AIアプリの開発者やスタートアップがAIモデルの構築、学習、実行に使うオープンソースのツールキットで、一部の推計ではAIアプリの85%がPyTorchを使っています。2016年にMeta(当時はFacebook)が開発したとき、既にNvidiaのGPUがAI研究の標準だったため、PyTorchの多くの機能はNvidiaのGPU向けに作られてきました。Metaは2022年にPyTorchを非営利団体のLinux Foundationに移管しています。
TorchTPUを使うと、AIアプリをGoogleのAIチップ「TPU」(Tensor Processing Unit)で動かせます。既存のPyTorchのアプリも、アプリを書き直さずに設定を変えるだけでTPUとGoogle Cloudに移せるといいます。Googleは、Meta、Hugging Face、vLLMを手掛けるInferact、SGLangを手掛けるRadixArkなどと直接協力し、こうした開発ツールとの互換性を確保したとしています。移行を手助けし、途中のエラーも直す専用ツール「TPU agent suite」も公開し、スマートフォンやPCなどでAIを動かすツール「LiteRT」もPyTorchのアプリで使いやすくしました。
Amazonも19日に、自社のAIチップ「Trainium」向けの「TorchNeuron」を公開したばかりです(本連載の10月17〜20日回で解説)。TechCrunchによると、AmazonはPyTorch本体にも、さまざまな機能をNvidiaのチップから切り離すコードを提出しています。ただし、TechCrunchは、別のチップに移しやすくなったからといって、開発者が一斉にNvidiaのハードウェアを手放すわけではないとも指摘しています。
ソース:TechCrunch
SpaceX:第3四半期の売上高146億ドル、「Super Intelligence」部門が75億ドルでAIは収入の52%に
TechCrunchによると、SpaceXは20日、規制当局への提出書類で、第3四半期の売上高が146億ドルだったと明らかにしました。けん引したのは、名称を改めた「Super Intelligence」部門で、最近買収したコーディングツール「Cursor」、対話型AI「Grok」、計算資源が1.7GWに達したネオクラウド事業から、75億ドルの売上高を上げました。AIは同社の収入の52%を占めます。AI事業の利益は4億3,100万ドルで、Cursorの買収に伴う一時的な株式報酬費用12億ドルがなければ、さらに大きかったといいます。売上高は、ビットコイン価格の回復と、内容が明らかにされていない関連当事者からの収入による約10億ドルでも押し上げられました。
設備投資の総額は196億ドルで、2つ目のデータセンター「Colossus II」の建設や大型ロケット「Starship」への投資が続いています。最高財務責任者のBret Johnsen氏は、第4四半期の設備投資が350億〜400億ドルになるとの見通しを示しました。純利益は44億ドルで、前年同期の10億ドルの赤字から黒字に転じましたが、1〜9月の累計では4億1,300万ドルの純損失です。Elon Musk氏は、超知能の展開を制約しているのはチップよりも電力や冷却などのインフラだと述べ、データセンター向けのタービン部品をSpaceXの金属鋳造の技術で作っていると説明しました。2027年末の年間経常収益は5,000億〜1兆ドルになるとの強気の予測も示しています。
ソース:TechCrunch
ドイツ政府とNvidia:産業向けフィジカルAIで共同意向宣言、ドイツのスタートアップ4社への投資を計画
AI Newsによると、ドイツ連邦政府はベルリンで開かれた「Invest in Germany Summit」で、Nvidiaと産業向けフィジカルAIの先端モデルを進める共同意向宣言に署名しました。Friedrich Merz首相とNvidia創業者でCEOのJensen Huang氏が内容を示し、連邦経済・エネルギー省と連邦研究・技術・宇宙省もMerz首相とともに署名しています。政府は、産業AIを体系的に広く使えるようにし、欧州に最先端の産業AIのエコシステムを築くことを目標に掲げています。
Merz首相は会場の中小企業(ミッテルシュタント)の経営者に向けて、蓄積した操業データこそがドイツの最大の強みだとし、AIがそのデータを使えるように扉を開いてほしいと呼びかけました。Huang氏は、ドイツのAgile Robots、Avelios Medical、Mirelo、Reflex Aerospaceの4社への投資計画を発表しています。これは、欧州の企業や大学、研究機関を支援するために、Nvidiaが約束した100億ドル近い投資の一部です。Siemensも、自律型の工場に向けたNvidiaとの提携を発表し、エアランゲン工場で、完全に仮想化した生産立ち上げでエンジニアリングの工数を最大85%減らし、エージェントによる生産計画で最大20%のコストを削減できるとしました。AI Newsは、これらの数字は第三者の検証結果ではなくSiemensの主張で、比較の基準や測定方法は示されていないと伝えています。
ソース:AI News
Eka Robotics:シリーズAで1億5,000万ドルを調達し評価額14.5億ドル、力の感覚を使うフィジカルAIモデル
TechCrunchによると、MIT教授のPulkit Agrawal氏と元Google DeepMindの研究者Tuomas Haarnoja氏が創業したEka Roboticsは、a16zとF-Primeが主導するシリーズAで1億5,000万ドルを調達し、調達後の評価額は14.5億ドルになりました。Ekaは、力を感じ取れるグリッパーと新しい深層学習モデルを組み合わせ、物をつかむ作業に取り組んでいます。モデルは、視覚・言語・行動の関係を学ぶ「vision-language-action」モデルではなく、力の入力と行動の関係に重点を置く「vision-force-action」モデルです。物理シミュレーターで強化学習の環境を大規模に動かし、数分で数千時間分のロボットの経験を生成できるといいます。
ロボットは重さ1kgまでの物を1時間に約1,500個つかめ、人間の約600個を上回ります。Ekaは、物を確実につかめる割合が95%を超えるとしています。グリッパーの価格は1,000ドル未満で、500万回の動作に耐える設計です。ただし、Ekaはまだ複数の産業顧客と非公開の試験導入をしている段階で、対象の作業はピッキングと配線の取り扱いです。イリノイ大学のKris Hauser教授は、実際の組み立てラインで1年間止まらずに動けるかが大きな課題だと指摘しています。
ソース:TechCrunch
以下は筆者の見解です。GoogleのTorchTPUとAmazonのTorchNeuronは、同じPyTorchのアプリを別のAI半導体で動かしやすくする動きです。AIを開発する企業にとっては、費用や調達のしやすさでチップとクラウドを選べる余地が広がります。一方、SpaceXの決算とMusk氏の発言、ドイツ政府とNvidiaの宣言は、AIの競争が計算資源、電力、産業の現場データに広がっていることを示しています。Merz首相が中小企業に操業データの活用を呼びかけた状況は、熟練者のノウハウや設備のデータを多く持つ日本の製造業にも重なります。Siemensの削減率やEkaの性能はいずれも企業側の数字で、自社の現場で試してから判断する必要があります。
世界のAIニュース②買収・資金調達・消費者向けAI:OpenAIのOrchestra Bio買収、Otter.ai、ChatGPTのチャットロック、Meta「Muse」
OpenAIがOrchestra Bioを買収:創薬の業務を支えるAIエージェントを、生命科学向けモデル「Rosalind」に統合
TechCrunchによると、OpenAIは20日、創業4年のバイオ向けAIソフトウェアのスタートアップOrchestra Bioを買収したと自社サイトで発表しました。買収の条件は公表されていません。Orchestra Bioは、2025年時点でa16z、Atria、8VCなどから約2,000万ドルを調達していたと報じられています。同社は、財務の管理から臨床試験の日程調整まで、創薬の運営に関わる細かな業務をこなすAIエージェントを作ってきました。
OpenAIは、Orchestra Bioのチームと技術を、生命科学研究向けのAIモデル「Rosalind」と、研究者の実験計画や結果の分析を支える関連ツール「Rosalind Workbench」に加えるとしています。OpenAIによると、Rosalindの顧客にはModernaやNovo Nordiskが含まれます。TechCrunchは、大手AIラボが製薬のような大きな産業向けのソフトウェアを次々に作っている例だとし、スタートアップがAIラボの新機能で競合にさらされる懸念がある中、今回は吸収される形になったと伝えています。
ソース:TechCrunch
Otter.ai:General Catalystの「Customer Value Fund」から3億2,000万ドル、株式の希薄化を伴わない資金
TechCrunchによると、AIの議事録ツールを提供するOtter.aiは20日、General Catalystの「Customer Value Fund」(CVF)から3億2,000万ドルを調達したと発表しました。CVFは、株式を希薄化させずにスタートアップへ資金を提供し、マーケティング支出の成果からリターンを得る仕組みです。株式を発行する通常の資金調達とは性格が異なります。Otter.aiは、資金を企業向け事業の拡大、販売戦略、海外展開、製品開発に充てるとしています。
PitchBookのデータでは、Otter.aiのこれまでの調達額は計5,000万ドルで、最後の調達は2021年でした。同社は昨年に年間経常収益(ARR)が1億ドルを超え、累計の利用者は昨年の2,500万人から4,000万人に増えたとしています。一方、月間の利用者数や解約率は公表していません。会議前に過去の会話をもとにした要点を届ける機能や、会議中にAIに質問できる「Live Assist」を試しています。議事録ツールの市場には、Fireflies.ai、Granola、Read AIなど競合が多くあります。
ソース:TechCrunch
ChatGPT「Locked Chats」:PINや生体認証でチャットをロック、エンドツーエンド暗号化は追加されず、保存期間も変わらない
TechCrunchによると、OpenAIは20日、ChatGPTの会話をロックできる「Locked Chats」を発表しました。4桁のPINか、対応する端末ではFace IDやTouch IDで保護します。ロックした会話は専用の「Locked Chats」の区画に移り、通常の履歴や検索結果から分けて表示されます。メモリー機能を有効にしている場合、この区画には専用のメモリーがあり、ロック後の新しい内容は通常のメモリーに反映されません。
OpenAIは、ロックしてもエンドツーエンドの暗号化にはならず、会話の保存期間も、ロック前に記憶した内容も、「すべての人のためにモデルを改善する」の設定も変わらないとしています。PINをリセットすると、ロックした会話とファイルはすべて完全に削除されます。Free、Go、Plus、Pro、Business、Enterprise、Eduの各プランで使え、ChatGPT for Healthcareでは使えません。20日から順次提供されます。
ソース:TechCrunch
Meta「Muse」:Sensor Towerのデータで米国のダウンロードが40日で1,000万件を超え、到達は12本目
TechCrunchが伝えたSensor Towerのデータによると、MetaのAIアプリ「Muse」は9月の公開以来1,090万回ダウンロードされ、うち1,020万回が米国でした。公開から40日で米国のダウンロードが1,000万件に達したアプリは、Museを含めて12本しかなく、直近はMetaの「Threads」(2023年7月)です。Muse以外でゲームではないアプリは、ThreadsとDisney+だけです。Museは現在、米国とカナダでしか提供されていません。
Sensor Towerによると、Metaは10月の広告費の39%をMuseの宣伝に充て、9月の23%から増やしました。米国での7日後の継続率は30%で、ChatGPT、Claude、Grokなど競合の平均19%を上回っています。10月16日には1日の利用者が初めて250万人に達しました。公開から40日の米国のダウンロードは、ChatGPTが370万件、Grokが50万件、Claudeが20万件でした。世界全体ではChatGPTが約1,500万件と上回り、その25%を日本が占めていたといいます。
ソース:TechCrunch
以下は筆者の見解です。OpenAIによるOrchestra Bioの買収は、大手AIラボが特定の業界の業務まで自ら手掛け始めていることを示しています。業界特化のAIサービスを使う企業は、提供元が大手に吸収されたときに契約やデータの扱いがどうなるかも確かめておくと安心です。Otter.aiの資金はマーケティングの成果に連動する仕組みで、調達額の大きさだけで企業価値を判断できない例です。ChatGPTのLocked Chatsは画面をのぞかれるのを防ぐ機能で、エンドツーエンド暗号化ではありません。業務で機密情報を扱う場合は、従来どおり会社の利用ルールとプランの設定で管理する必要があります。
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日本のAIニュース①AIセキュリティ:GMOイエラエが「ARTEX」の悪用を確認、中国製LLM発言の専門家が補足、AIブラウザの論文、IBMのAIガバナンス調査
GMOイエラエ:ある攻撃元が日本企業約20社を標的にした不正アクセスでAI侵入テストツール「ARTEX」の悪用を確認、調査全体では標的企業のうち8社が漏えいを公表
ITmedia NEWSによると、GMOサイバーセキュリティ byイエラエは10月19日、日本企業を狙った不正アクセスで、AIを使った侵入テストツール「ARTEX」の悪用を確認したと発表しました。同社は、相次ぐ不正アクセスの攻撃元の多くがAIであることを確認したとしています。ARTEXは中国で開発されたオープンソースの侵入テスト自動化ツールで、本来は外部のLLMと連携してシステムの脆弱性を見つけ、対策に役立てるものです。
同社が外部機関と連携して調べたところ、観測できる範囲では、ある攻撃元はほぼ日本だけを標的にしていました。狙われた日本企業は約20社で、うち9社は同じ業種でした。日本企業を中心に狙うAIを使った攻撃用インフラも6台見つかり、主な標的は「デジタルギフト・小売り流通」「保険・金融」「EC」など、攻撃元ごとに業種が分かれていました。標的として確認した日本企業のうち8社は、9〜10月に情報漏えいを公表しています。同社は同一の攻撃グループによる犯行とみて、調査で得た情報を法執行機関に共有しました。
韓国の金融機関を狙った攻撃でも、CrowdStrikeがARTEXの悪用を報告しており、DeepSeekの「DeepSeek v4.1-flash」を中心に、Zhipu AIの「GLM-5.3」やxAIの「Grok 4.6」をつないでいたことが分かっています。一方、日本の事案で使われた具体的なAIモデルは、GMOイエラエのブログでは明示されていません。韓国の事案でのCrowdStrikeの分析は、本連載の10月9〜10日回で解説しました。同社の福森大喜氏は、熟練の攻撃者が攻撃側と防御側のミスマッチを徹底的に分析し、それを突くためにAIの特徴を使っているとの見方を示しています。
ソース:ITmedia NEWS
「どの国のモデルか」は本質ではない:テレビ高知の取材で話題になったVLCセキュリティラボの中本有哉氏が発言を補足
ITmedia AI+によると、テレビ高知の取材で「中国の企業が開発したLLMは、危険な指示をそのまま受け取って実行してしまう」と引用されたVLCセキュリティラボの中本有哉代表が、発言を補足しました。中本氏は、この説明が中国製モデル全般に一律に当てはまるわけではなく、ガードレールの強さは開発元やモデル、バージョンによって大きく異なるとしています。オープンウェイトのモデルは国籍を問わず手元でガードレールを外せること、米国のモデルもジェイルブレイクで攻撃に悪用された事例があることも指摘しました。テレビ向けに使った「倫理観が薄いLLM」という平易な表現が強調されてしまったと釈明しています。
中本氏は、直近の不正アクセスで中国製LLMが使われたことを、自社が直接確認したわけではないとしています。問題の本質は「どの国のモデルか」ではなく、攻撃者が安全対策の弱い、あるいは外されたAIを自由に使える状況にあると指摘しました。そのうえで、パスワード管理、多要素認証、脆弱性の早期修正、ログの監視といった基本的な対策を着実に実施することが、AIを使った攻撃への備えとして最も有効だと呼びかけました。
ソース:ITmedia AI+
AIブラウザ7種の検証(4月発表の論文の解説):4種で同一オリジンポリシーを回避する経路、データ窃取の実証はChatGPT Atlas
ITmedia NEWSの連載「ちょっと昔のInnovative Tech」は、少し前に発表された論文を取り上げる番外編です。今回は、米ワシントン大学の研究者らが4月に発表した論文「Agentic Browsers and the Same-Origin Policy」を解説しました。この2日間の新しい研究ではありません。研究チームは、ChatGPT Atlas、Chrome with Gemini、Claude for Chrome、Perplexity Comet、Edge with CoPilot、Brave Leo AI、Firefox AI Modeの7種を調べ、そのうち4種で、異なるサイト同士の情報の干渉を防ぐ「同一オリジンポリシー」を攻撃者が回避できる経路を見つけました。
経路が見つかったのは、ChatGPT Atlas(エージェントモード)、Chrome with Gemini、Claude for Chrome、Perplexity Cometです。4種とも、ページに埋め込まれた別サイトの枠(iframe)の中身まで読み取っていました。悪意あるページに隠した文章でエージェントに不正な指示を渡すプロンプトインジェクションを使えば、ネットバンキングなど別のタブの情報が盗まれるおそれがあります。研究チームは3つの攻撃シナリオを示し、実際のデータ窃取はChatGPT Atlas(エージェントモード)で成功させました。最もリスクが低かったのはFirefox AI Modeですが、使える機能も少ないとしています。なお、記事によると、ChatGPT Atlasは8月に提供を終えています。
ソース:ITmedia NEWS
IBM調査(欧州・中東8カ国):回答者の80%がAIのインシデントが経営層まで届いたと回答、AIエージェントの責任者は定まらず
ITmedia エンタープライズによると、IBMは10月14日(現地時間)、欧州と中東の企業を対象にしたAIガバナンスの調査結果を発表しました。英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、サウジアラビア、UAEの従業員1,000人以上の組織で、Cレベルを含む経営幹部3,221人が回答しています。日本は対象に含まれていません。回答者の80%が、過去1年間にAIに関連するインシデントが自社の取締役会や経営幹部にまで達したと答えました。インシデントには、AIエージェントの障害、データ漏えい、AIによる判断の誤り、セキュリティ侵害が含まれます。ただし、それを受けてAIガバナンスの方針や枠組みを変えたのは40%でした。
AIエージェントが不利益な結果を招いた場合に誰が責任を負うかについて、明確な合意はありませんでした。最も多かったCIOまたはCTOでも17%にとどまります。経営幹部は2027年までに必要なものとして、AIベンダーの責任を定める法的・契約上の枠組み(33%)、人間にエスカレーションする基準の明確化(32%)、エージェントの判断と行動のリアルタイム監視と監査証跡(30%)、全社でエージェントを即座に停止できる機能(29%)を挙げています。
ソース:ITmedia エンタープライズ
以下は筆者の見解です。GMOイエラエの調査と中本氏の補足は、同じ方向を指しています。攻撃者がどの国のAIモデルを使ったかより、AIで効率化された攻撃が、多要素認証の未設定や修正されていない脆弱性といった基本的な隙を突いてくる点が問題です。AIブラウザの論文は、AIエージェントに人間と同じ権限を渡すと、プロンプトインジェクションで別のサイトの情報まで盗まれうることを示しました。IBMの調査は欧州と中東の結果で、日本は調査対象外ですが、自社のエージェントの責任分担が明確かを点検する材料になると考えます。AIセキュリティの対策は、新しいツールより先に、基本の点検と責任の所在の明確化から始めるのが現実的です。
日本のAIニュース②AI半導体・自動運転・自治体DX・ChatGPT広告:PFNとTenstorrent、チューリング、江戸川区、米大学の調査
PFNとTenstorrent:生成AI向けプロセッサを含むシステムを2031年度まで共同開発、光電融合技術を活用
ITmedia AI+によると、Preferred Networks(PFN)と米Tenstorrentは10月20日、生成AI向けプロセッサを含むシステムの共同開発を始めたと発表しました。CPUの開発はTenstorrentが、NvidiaのGPUが事実上の標準となっている「AIプロセッサ」の開発はPFNが担います。光電融合技術と最先端のパッケージング技術を活用し、AIプロセッサのシステム化技術を2社で開発します。NEDOの公募に採択されたもので、2031年度まで研究開発を進め、その後の事業化を目指します。
Tenstorrentは、AMDやApple、Teslaでチップ設計を手掛けたJim Keller氏が率いる企業で、RISC-Vベースのプロセッサを開発しています。国内ではRapidusと、2nmのロジック技術によるエッジAIアクセラレータの開発を進めています。PFNは国産LLM「PLaMo」の開発のほか、神戸大学と共同で専用プロセッサ「MN-Core」を開発しています。次世代の「MN-Core L1000」は、700億パラメータ規模のLLMで毎秒500〜1,000トークン程度の推論速度を出せるとしていますが、提供予定は当初の2026年から2027年に変わりました。Tenstorrentの15億ドルの資金調達は、本連載の10月17〜20日回で取り上げています。
ソース:ITmedia AI+
チューリング(7月の講演から):「GPUより速いチップ」はGoogleのTPU v6e、1億パラメータ規模のモデルでH200の約3倍速
ITmedia ビジネスオンラインの記事は、7月30〜31日に開かれた「Google Cloud Next Tokyo 26」でのTuring(チューリング)のCTO、山口祐氏の講演をもとにしています。同社は完全自動運転(レベル5)を目指す2021年設立のスタートアップで、トヨタ「アルファード」にカメラ7台を載せた車両で、東京や大阪など国内5都市で試験走行に成功しています。カメラ映像などを1つのAIに入力して操作を直接出力する「E2E自動運転」を採用し、NvidiaのOrinの上で約1億パラメータのモデルを動かしています。月に約200個のモデルを開発しています。
データが100テラバイトからペタバイト級に増えると、GPUを増やすだけでは開発のサイクルが速くならなかったといいます。同社は4月からGoogle Cloudで計算基盤を構築し、H200を8基載せた仮想マシン30台を2週間で立ち上げ、ストレージを用途ごとに4階層に分けました。記事の見出しにある「GPUより速いチップ」は、GoogleのTPU v6eです。月額の利用料金はH200が1基で約125万円、TPU v6eが4チップで約128万円とほぼ同水準で、同規模の画像系モデル2種の学習時間は、H200の370秒と406秒に対し、TPU v6eでは123秒と111秒でした。山口氏は、1億パラメータ程度のモデルならTPU v6eがおよそ3倍速いと述べる一方、メモリ容量などはモデルの要求に応じて選ぶ必要があるとしています。
江戸川区(8月の講演から):研修を受けた職員1,271人の利用をもとに、年3万5,494時間の削減と試算
ITmedia ビジネスオンラインの記事は、8月26〜27日に開かれた「AI博覧会 Summer 2026」での、江戸川区経営企画部DX推進課の渡辺良光課長の講演をもとにしています。江戸川区は2021年4月にAIによる議事録作成からAIの活用を始め、2023年7月に生成AIの庁内利用を開始しました。2026年4月には「江戸川区のAI活用に関する基本方針」を策定・公表し、渡辺氏はこれを区のAI活用の「憲法的な規定」と説明しています。
渡辺氏が示した効果は、生成AIの利用状況をもとにした試算です。研修を受けて生成AIを使った職員1,271人で、年間の削減時間は3万5,494時間、東京都の最低賃金を基準にすると約4,351万円に相当し、ROIは1,136%と試算しています。電話や窓口の相談をAIがリアルタイムで文字にして要約するシステムは13部署で導入され、上席者が対応を確認・支援できる安心感も生まれたといいます。2026年4月にはAI活用支援デスクを設け、約6,000人の職員を対象にしたeラーニングの研修も実施しています。渡辺氏は、ツールやAIを渡せばそれでよいわけではないと話しています。
ChatGPT広告の実態調査:米国の91のおとりアカウントで、所得が低い設定ほど広告が多く表示
ITmedia NEWSの連載「Innovative Tech」によると、米ペンシルベニア大学や米ハバフォード大学の研究者らは、論文「The Beginning of ChatGPT Ads」(arXiv 2608.05008)で、ChatGPTの広告の配信先と基準を調べました。米国在住の多様な利用者を模すため、人種(黒人、ヒスパニック、白人)と3つの所得水準を組み合わせた91個のアカウントを作り、2026年2月から毎日さまざまな質問を投げて、表示される広告を観察しました。
アカウント作成から約2週間で広告が出始め、所得水準の低い設定のアカウントほど広告が多く表示されました。広告を受け取ったアカウントの推定世帯年収は6万ドル付近に集中し、受け取らなかったアカウントは8万ドル付近にピークがありました。人種による違いは見られませんでした。広告の約57%は小売業やIT関連のサービスで、「タイ料理の作り方」の質問にフードデリバリーの広告が出るなど、質問の文脈に合わせた配信が確認されています。医療、メンタルヘルス、政治の話題には、OpenAIが定めたルールどおり、広告はほぼ表示されませんでした。
ソース:ITmedia NEWS
以下は筆者の見解です。PFNとTenstorrentの共同開発、チューリングのTPU v6eの評価、GoogleのTorchTPUは、AIの計算資源をNvidiaのGPUだけに頼らない選択肢が増えていることを示しています。チューリングの事例が示すように、どのチップが速いかはモデルの規模やメモリの要件で変わるため、自社のモデルで測ることが欠かせません。江戸川区の3万5,494時間は試算で、研修を受けた職員の利用をもとにしています。自治体DXや企業の業務効率化で効果を示すときも、試算の前提を明らかにしたうえで、研修や相談窓口と組み合わせることが定着の鍵になると考えます。ChatGPT広告の調査は米国のアカウントでの結果で、日本で同じ傾向になるかはこの研究からは分かりません。
日本企業への影響と今後の見通し:AIモデルの出どころの把握、AIエージェントの統制、AIセキュリティの基本対策
ここからは、この2日間のAIニュースを踏まえた当社の考えです。以下は筆者の見解です。記事が伝えた事実と、筆者の見解を分けて整理します。
| 論点 | 記事が示した事実 | 日本企業への影響(筆者の見解) |
|---|---|---|
| AIモデルの出どころ | DHSがDeepSeekの製品と、その実装を使った第三者の製品を連邦民間機関から排除。DeepSeekはMITライセンスで重みを公開 | 自社の製品と利用中のツールに、どのAIモデルが入っているかを説明できるようにする |
| AIエージェントの統制 | デジタル庁が利用者・管理者・開発者ごとの源内基準を公表。IBM調査ではエージェントの責任者に合意がない | エージェントを導入する前に、役割ごとの責任と停止の手順を決める |
| AIを使った攻撃 | GMOイエラエがARTEXの悪用を確認。ある攻撃元が日本企業約20社を標的、調査全体では標的企業のうち8社が漏えいを公表。中本氏は基本対策が最も有効と指摘 | 多要素認証、脆弱性の修正、ログの監視を優先して点検する |
| 計算資源とAI半導体 | GoogleのTorchTPU、AmazonのTorchNeuron、PFNとTenstorrentの共同開発。流出したS-1の内容として、Anthropicが計算資源の確保に苦労していると報道 | チップやモデルを切り替えられる設計にし、提供元の容量不足に備える |
1つ目は、AIモデルの出どころです。米政府の命令は、DeepSeekの製品だけでなく、その実装を使った第三者の製品も対象にしました。オープンウェイトのモデルが広く使われるほど、利用しているSaaSの中でどのモデルが動いているかは見えにくくなります。日本企業も、取引先から使用モデルの説明を求められる場面が増えると考えます。
2つ目は、AIエージェントの統制です。デジタル庁は、エージェントチャットの順次導入を始めた10月20日に、立場ごとの責務を定めた基準も公表しました。IBMの調査では、エージェントが不利益を招いたときの責任者について経営幹部の合意がなく、即座に停止できる機能を必要とする声もありました。日本企業がエージェントを導入するときも、権限の範囲、人への引き継ぎの基準、停止の手順を先に決めておくべきです。
3つ目は、AIセキュリティの基本対策です。GMOイエラエは、AIを使った攻撃の標的となった日本企業のうち8社が情報漏えいを公表していたとしていますが、中本氏が指摘するように、備えの中心は多要素認証や脆弱性の修正といった基本です。AIブラウザの論文が示したプロンプトインジェクションの危険も踏まえ、社員がAIエージェントに機密性の高いサイトの操作を任せる場面のルールも必要になります。
今後の見通しとして、確認しておきたい予定もあります。Anthropicは11月のIPOを目指していると報じられており、S-1が正式に公開された場合は、各数字が記載されているかを報道や投資家向け説明と照合する必要があります。デジタル庁は源内工房を12月ごろまでの導入を目指し、源内OSS Ver.2.0を2027年2月ごろに公開する予定で、大規模実証は2027年3月まで続きます。SpaceXは11月にStarshipの次の試験飛行を予定しています。IBMの調査が触れたEU AI法の高リスクAIに関する主な義務は2027年12月に適用が始まり、欧州と取引する日本企業にも影響する可能性があります。PFNのMN-Core L1000は2027年の提供を予定しています。
実務への活用:この2日間のAIニュースから日本企業が取り組みたい4つのこと
この2日間のニュースを、日本企業のAIエージェント導入とAIセキュリティの実務に当てはめると、次の4つになります。いずれも記事が示した事実を前提にした筆者の提案です。
1. 業務で使うAIツールと、そこに組み込まれたAIモデルの出どころを一覧にする
- 記事が示した事実:DHSは、DeepSeekの実装を使って開発された第三者の製品・サービスも、連邦民間機関のITシステムから排除するよう命じた。DeepSeekは新しいモデルの重みを商用利用できるMITライセンスで公開している
- 筆者の見解:社内で使う生成AIツールとSaaSを一覧にし、それぞれがどのAIモデルを使い、データをどこで処理するかを提供元に確認する。自社の製品にAIモデルを組み込んでいる場合は、取引先に説明できる資料を用意しておく
2. AIエージェントを導入する前に、利用者・管理者・開発者の役割と責任を決める
- 記事が示した事実:デジタル庁は源内基準で、利用者・管理者・開発者の立場ごとに責務と遵守事項を定めた。IBMの調査では、AIエージェントの責任者について経営幹部の合意がなく、即座に停止できる機能を必要とする回答が29%あった
- 筆者の見解:エージェントを使う人、管理する人、作る人を分けて、それぞれの責任と権限を文書にする。人に判断を引き継ぐ基準と、問題が起きたときにエージェントを止める手順も決めておく
3. AIを使った攻撃に備え、多要素認証・脆弱性の修正・ログの監視を点検する
- 記事が示した事実:GMOイエラエは、AI侵入テストツールARTEXの悪用を確認した。ある攻撃元が狙った日本企業は約20社で、一連の調査で標的と確認した日本企業のうち8社が情報漏えいを公表した。中本氏は、パスワード管理、多要素認証、脆弱性の早期修正、ログの監視が最も有効な備えだとした
- 筆者の見解:外部に公開しているシステムの脆弱性の修正状況と、管理者アカウントの多要素認証を優先して点検する。AIブラウザのエージェント機能は、ネットバンキングや社内システムにログインしたまま使わないよう社内ルールを定める
4. 生成AIの効果を、試算の前提が分かる形で測り、研修と相談窓口を用意する
- 記事が示した事実:江戸川区は、研修を受けた職員1,271人の利用をもとに年3万5,494時間の削減と試算した。AI活用支援デスクの設置や約6,000人を対象にしたeラーニングも実施している
- 筆者の見解:生成AIの効果を報告するときは、対象者、計測の方法、試算の前提を併記する。ツールを配るだけで終わらせず、研修と相談窓口を用意し、現場で便利だと感じた使い方を共有する仕組みを作る
まとめ:この2日間のAIニュースは、AIの出どころと統制が問われた
2026年10月20日〜21日のAIニュースから19本を取り上げました。中心となったのは、米国土安全保障省が連邦民間機関に対し、DeepSeekの製品と、その技術を使った第三者の製品の調達停止と排除を命じたことです。命令は2018年の連邦調達サプライチェーン安全法に基づき、各機関は例外を申請できます。中国外務省は反発しています。Anthropicについては、WSJに流出したS-1の内容として大手クラウドとの関係の変化が報じられ、WSJによると上半期の純損失は807億ドルでした。11月のIPOを目指しているとも報じられています。
世界では、GoogleがTorchTPUをオープンソースで公開し、SpaceXはAIが収入の52%を占める決算を発表しました。ドイツ政府とNvidiaは産業向けフィジカルAIで共同意向宣言に署名し、Eka Roboticsは評価額14.5億ドルで資金を調達しています。OpenAIはOrchestra Bioを買収し、Otter.aiは3億2,000万ドルの資金を得ました。ChatGPTにはチャットのロック機能が加わり、MetaのMuseは米国で40日に1,000万件を超えるダウンロードを記録しました。日本では、デジタル庁の源内でAIエージェントの提供が始まり、GMOイエラエがARTEXの悪用を確認し、PFNとTenstorrentがAI半導体の共同開発を発表しました。Siemensの削減率、Ekaの性能、江戸川区の削減時間などの数字は、各社・各団体の主張や試算で、引用した記事に第三者の検証結果は示されていません。
この2日間のニュースに共通しているのは、使うAIの出どころと、AIエージェントに任せる範囲を、組織として説明できるかが問われ始めたという点です。使用モデルの把握、役割ごとのルール、セキュリティの基本対策を整えたうえで、業務効率化に使う範囲を広げていくことを勧めます。
AIエージェントの導入ルールづくりから、安全なAIシステムの開発まで支援します
AIエージェントを業務で使うには、利用する人・管理する人・作る人ごとの役割分担と、使うAIモデルの把握が欠かせないと考えます。株式会社Awakは、AIに任せる業務の選定、利用中のAIツールの棚卸し、承認や監視の手順を組み込んだAIシステムの開発まで、業務効率化コンサルティングとAI開発の両面からご支援します。どの業務から手を付けるべきかの整理だけでも、お気軽にご相談ください。
